福祉のひろば 2012年6月号
【特集】生活保護利用者の「人としての生活」保障を考える
貧困と孤立の深まりと広がりは、さまざまな深刻な事態を呈しています。障害を持つ子と高齢の母親の2人暮らし、そこで母親の急病死、残された子が餓死。高齢姉妹暮らしの餓死事件。このような事例の報道は絶えることがありません。少し古いデータ(2006年)ですが、東京都23区の孤独死は、男女合わせて1年間で3,395人、毎日10人前後。死後、発見されるまでの平均日数は、男性12日、女性6.5日です(東京都監察医務院「東京都23区における孤独死の実態」2010年発行より)。経済的貧困と関係の貧困が結びつきを強めています。貧困で失った社会関係を取り戻すことは容易ではありません。
今号では、生活保護利用の実態とその背景を考えながら、失った社会関係の修復や新たな人としての関係づくりから社会で生きることに踏み出せる力を育む活動などを紹介します。4月に行ったシンポジウムの内容を掲載するものです。
なお、当日の参加者の一人、福住節子さん(大学非常勤講師)より感想を寄せていただきました。紹介して、本題に入ります。
今回の「シンポジウム」では、3人の報告者の方々、また質問やコメントをされた方々の発言を通して、多くの気づきや学びの機会を得させていただくとともに、私自身の課題をあらためて確認することができました。
もっとも強く確信したことは、「貧困化・格差社会化の進行」という現状こそ、今日の日本におけるさまざまな問題の顕在化であるということです。とりわけ、生活保護の捕捉率の圧倒的な低さ。単身女性高齢者の貧困率の高さ。これらはまさに社会保障・雇用の問題と連動していることが、大口さんの報告で浮き彫りにされました。
また、生田さんの報告は<現代の貧困=経済の貧困+関係の貧困(社会的孤立)>という構図により、失業・ホームレス等と併せて児童虐待・不登校・ひきこもりなど「居場所がない」人々の状況が明確に提示されました。さらに伊東さんの報告では、「生活保護利用後の支援」における重要な課題として、「いかに当事者のエネルギーを引き出し、発揮してもらうか」と力説されたのが心に響きました。
討論で発言されたみなさんからは、それぞれに数々の実践の中からの貴重な経験や生活保護利用者の方々の状況や実態をリアルに聴かせていただくことができました。
私は、非常勤講師として大学で「福祉」と「教育」に関連する科目を担当していますが、非正規雇用が30%を超える中で、若者の社会的弱者化も進行し先が見えない今日、常に不安にかられる学生たちが、どのような状況にあっても事実をしっかりと見極め、主権者意識を持ち、主体的に社会に関わっていけるには、今何を伝え、何を考え合うべきか……今回の学びを今後に生かしたいと考えています。
恩師真田是先生が遺された「遠くをみつめ 近くをみつめ」という言葉を、あらためて思い起こしたシンポジウムでもありました。
(編集主幹 黒田孝彦)
福祉のひろば2012年6月号
● 表紙の絵と写真
絵=神門やす子
写真=トルコ・カッパドキアのホットバルーン。
飛行前に気球内の空気を熱している。 (下野祇園)
カット=川本浩
【ひろばトーク】
えっ!! 生活保護・福祉事務所に「警官OB」を配置 渡辺 潤
● 特集 生活保護利用者の「人としての生活」保障を考える
生活保護制度の現状と問題点、これからの課題 大口 耕吉郎
野宿者支援を通して見える今日の生活保護の問題点 生田 武志
生活保護利用後の生活支援について 伊東 弘嗣
福祉事務所は利用者の「味方=支持者」か──40年間の自問自答 氏久 廣
定期的に交流の場をつくり当事者の生きる力を紡ぎだす 山本八重子
生活保護・就職者支援制度利用義務づけの問題点 布川日佐史
被災地における生活保護の現状 ──生活保護は届いていますか? 下村 幸仁
● トピックス
東日本大震災で福祉労働者が果たした役割に関する調査(2) 北垣 智基
許せぬ!「借上げ災害公営住宅」の追い出し 安田 秋成
第18回社会福祉研究交流集会in福島(8月25・26日)
● 連載
フォーラム 福祉分野の労働相談から(雑感) 前田 鉄雄
ひとつのこと─社会福祉労働と私たちの実践
さくらちゃんの旅立ち──知的ハンディを持つ子の進路 高鷲学園
連載 小川政亮 第二部 自伝(3) 意気投合 小川 政亮
相談室の窓から 親元から離れて 青木 道忠
わらじ医者 早川一光の「よろず診療所日誌」
不思議、ふしぎ、人間のつくり(その6) 早川 一光
よりあって おりあって──宅老所よりあい物語──
「よりあいの森」を創ろう 下村 恵美子
育つ風景 保育園中おいしい匂いでいっぱいにしたい 清水 玲子
穂波のアメリカ子育て事情 訴訟大国アメリカ? 吉田 穂波
映画案内 『ショーシャンクの空に』 吉村 英夫
現代の貧困を訪ねて 「おっちゃん、なんで外で寝なあかんの?」 生田 武志
地球へ途中下車 豊かさとは?──社会主義の国、キューバ 根津 眞澄
施設訪問ボランティア メイクボランティアあんぷる
お化粧でいきいき笑顔に 諸角 妙子
ホームレスから日本を見れば ありむら 潜
花咲け!男やもめ 川口 モトコ
みんなのポスト/今月の本棚/しりとりであそぼう!&憲法クイズ/福祉の動き
● グラビア
300余年前から村人の暮らしの大事な核として受け継がれてきた大鹿歌舞伎