福祉のひろば 2012年3月号
【特集】被災者・被災地とともに(?)─第16回合宿研究会から
今号は、総合社会福祉研究所が1月7日〜9日に岩手県遠野市で開催した第16回合宿研究会「被災地とともに──被災地で何が問われているか──」の取り組みを紹介します。
例年、次回の社会福祉研究交流集会の開催予定地で、冬の合宿研究会を行ってきました。今回の研究会では、初日に岩手県大槌町保健師全戸家庭訪問健康調査から問われたこと(鈴木るり子さん)、応急仮設住宅の開設・運営に関わって(冨安亮輔さん)、被災地のまちづくり(城内仲悦さん)の実践・研究報告、二日めは陸前高田市の視察(応急仮設住宅見学と居住者の話、仮設知的障害者グループホーム、市街地、一本松展望台の視察、被災状況と現況等について地元の管野悦雄さん、大坪涼子さん、伊藤勇一さんらから報告を伺い、交流)、最終日には小川政亮さん(日本社会事業大学名誉教授)と鍋谷州春さん(日本福祉大学客員教授・総合社会福祉研究所主任研究員)の対談を行いました。今年の社会福祉研究交流集会は福島県で開催する予定です。
東日本大震災から1年になろうとしています。本誌では今号を含め、この1年間で4回の特集を組み、被災地の生活・地域などを紹介してきました。そのたびに被災地の様相が変わってきています。
本誌では、「憲法を基軸にした生活再建こそが復旧・復興の原点」という視点で取り組んできました。私たちは、日常生活で憲法25条で示された豊かな生活(私はあえて、?普通の生活?と言いたい)が権利として保障され、人として生きていることこそが災害時でも基底であることを伝えてきました。研究会で「大槌町の世帯平均年収は約170万円。それでもなんとか生活してきたのは、家と畑や田んぼと地域があったから。それを津波が持ち去った」という報告を受けました。政府は、現実の被災地の生活や希望とは大きく乖離し、惨事便乗型資本主義を地で行く対応です。多くの応急仮設住宅で、集会所や支援センターが確保できていない現実。みなし仮設住宅に避難されている人々への支援はほとんど手つかず。ましてや、他県に移った人に対しても。平成の合併や被災で地方公務員や社会福祉協議会職員が減少している中で、さまざまな人々が精一杯、人を、まちを支えています。
社会保障と税の一体改革が如何に被災地の現実と乖離しているかを、改めて確認した研究会でした。
(編集主幹)
● 表紙の絵と写真
神門やす子
背景写真:陸前高田の一本松(下野祇園)
【ひろばトーク】
聴覚障害者のこころのケアと相談支援の課題 稲 淳子
● 特集 被災者・被災地とともに(?)──第16回合宿研究会から
陸前高田市の視察と地元関係者との交流
大槌町 保健師全戸家庭訪問健康調査活動から見えたこと 鈴木るり子
遠野市 コミュニティケア型仮設住宅 希望の郷「絆」 冨安 亮輔
久慈市 自然を生かした復興とまちづくりを 城内 仲悦
権利の実現をめざして─小川 政亮・鍋谷 州春対談
感想とまとめ 小野 正夫・牧岡 英夫・内藤 智子・末永 睦子
● トピックス
座談会 小川 恂臧さんは何を残したか(後篇)
小川 政亮・横湯 園子・永岡 正己
● 連載
フォーラム 保育運動の夢の砦「保育プラザJAPAN」ができた! 上野 さと子
ひとつのこと―社会福祉労働と私たちの実践
高齢視覚障害者援助の専門性とは? 槻ノ木荘
相談室の窓から 大学進学後のひきこもり 青木 道忠
わらじ医者 早川一光の「よろず診療所日誌」
不思議、ふしぎ、人間のつくり(その3) 早川 一光
よりあって おりあって─宅老所よりあい物語─ 生活のなかでおくる 下村恵美子
育つ風景 福島からの報告 その3 清水 玲子
野口雨情──名作の底に流れるもの──
第12回(最終回) 『人買船』 奈良 達雄
映画案内 『恍惚の人』 吉村 英夫
現代の貧困を訪ねて 「西成を変えることが大阪を変える」 生田 武志
地球へ途中下車 第7回 砂漠に暮らす人々─モロッコ 根津 眞澄
私の研究ノート 高齢者の社会的孤立 湯川 順子
ホームレスから日本を見れば ありむら潜
地域から現場から 中国残留邦人への医療支援 小澤 直美
花咲け!男やもめ 川口モトコ
今月の本棚/みんなのポスト/4月号より書店販売中止のお知らせ/福祉の動き
● グラビア 陸前高田の一本松で消防団員51名に黙祷