社会福祉研究交流集会
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第5回社会福祉研究交流集会第1分科会報告

介護保険制度の問題点と運動の課題
1999/8/28
伊藤周平(九州大学)

はじめに
介護保険制度の実施まで7ヶ月(要介護認定の申請は1999年10月からはじまるため・実質的には1ヶ月)となった現在、制度実施に向けての準備が各自治体で本格化しています。
介護報酬などの重要事項はまだ未定ですが、介護保険法上の重要な政令・省令は9割近くが示され、しだいに介護保険制度の全貌か明らかになりつつあります。それに伴い、介護保険制度の矛盾や問題点もしだいに明らかになり、自治体や福祉現場の関係者だけでなく、一般市民の間にも介護保険制度に対する不安や批判が高まってきています。
ここでは、現時点までに明らかになってきた介護保険制度の内容と問題点を指摘し、それをふまえた上で、今後の社会保障運動の課題を展望してみたいと思います。

1 要介護認定〜公平な認定は期待できず
(1)要介護認定の手続き
・医療保険と異なり、介護保険では、要介護認定を受け・ケアブラン(介護サービス計
画)を作成してからでないと、サービスが利用できません(図表1)。
・要介護認定だけで、判定結果がでるまで30日かかります。緊急の場合には、要介護認定を受けずにサービスを利用することもできますが、その場合は、利用料を全額立て替えて、あとで保険に請求して払戻しを受ける形となります。

(2)要介護認定によるランクづけ
・要介護認定を受けても、「自立」となれば、介護保険のサービスは利用できません。
・現在、デイサービス(適所介護)を利用している人の約3割の人は「自立」と認定され、2000年4月からデイサービスが利用できなくなる見込みです。
・現在、ホームヘルプサービス(訪問介護)を利用している人も、厚生省の推計では、全国で約4万人の人が2000年4月からサービスの利用ができなくなります。
・要介護認定は、その人の生活環境、収入の多寡、家族状況などは無視して、身体介護の必要性だけで、主にコンピューターで判定されます。
・要介護状態区分は6段階(要支援、要介護5段階)かあり、それに応じて、保険給付の支給限度額が決められ、保険が効くサービスの量が決まります(図表2)。支給限度額を超えたサービスを利用した場合には、保険が効かないので、費用は全額自己負担となります。

(3)要介護認走の問題点
1998年度の要介護認定のモデル事業では、コンピューターによる1次判定の結果があまりに実態とかけ離れた結果となっているとして、市町村から問い合わせや苦情が厚生省に殺到しました(合計で2000件近くの疑義照会)。例えば、自力で寝返りもうてないような高齢者の場合、過去2回のモデル事業では最も重い「要介護5」であったのに、今回は中度の2や3と判定される人が多発しました。また、痴呆症状がひどく徘徊のある高齢者が「自立」と認定されたり、項目が1〜2項目違うだけで、極端に要介護度が上下するケースも目立ち、判定に合理的な整合性がみられませんでした。
・1998年度モデル事業の「実施状況の概要」によると、今回の要介護認定の結果は「要介護3」が最も多く、全体の21.8%(前回20.2%)、ついで「要介護2」21.2%(同14.1%)、以下「要介護1」18.5%(同6.3%)、「要介護4」13.2%(同24.2%)
「要介護5」8.O%(同22,5%)、「要支援」7.6%(同6・9%)、「自立」6・9%(同4.2%)の順でした。1997年度のモデル事業に比べ、明らかに要介護度布が軽度の方にシフトしていることがわかります。これは、厚生省が前年度と要介護認定の基準を変えたためです。つまり、厚生省の「さじ加減」ひとつで要介護認定基準の変更が可能で、給付対象者の数や給付費を意図的にコントロールできるのです。
・1998年度のモデル事業の結果を踏まえ、若干の修正が加えられ、1999年10月から始まる本番の要介護認定の基準が示されました(図表3)。「中間評価項目」を1次判定に加え、2次判定が「状態像の例」照らして行われるよう修正されたのですが、これで公平な認定が可能になったとはとてもいえません。
・介護認定審査会が行う2次判定によって、1次判定の矛盾や問題を是正することが期待されるのですが、現実問題として、申請が多くなった場合、相当な事務量が予想される認定作業を30日以内という限られた期間内に、非常勤の委員で構成される介護認定審査会で適切に処理することは物理的にかなり困難です。実際、モデル事業でも1件当たりの平均の審査時間はわずか4分にすぎません。これでは、2次判定は大半がコンピューターの1次判定を追認する結果となりかねません。
・かかりつけ医の意見言は大病院の医師に依頼すると遅れる例が多かったそうです。
・財源や人的な制約のために、単独で審査会を設置できない市町村も多く、各地で広域連合による対応や都道府県への委託が考えられています。
・このままでは、要介護認定の結果、これまでサービスを利用できた人が利用できなくなったり、サービスの利用回教を削減されたりする人が続出するでしょう。
・要介護認定の結果に対する不服申立ては市町村ではなく、都道府県の介護保険審査会(9名ぐらいの非常勤の委員で構成、要介護認定は3名以上の公益委員代表のみで審査)に行うこととなります。それでも、不服申立てが続出し、それに対して十分な対応ができなくなることが予想されます。

2 保険料負担と利用料負担〜あなたはこの負担に耐えられますか?

(1)保険料の負担
・40歳以上のすべての国民は強制加入となり、死亡するまで保険料を払わなければなりません。原則として収入の低い人もない人もすべて保険料を払う必要があります。
・65歳以上の人(第1号被保険者)は月15000円以上の年金を受けていれば、年金から保険料が天引きされます。それ以外の第1号被保険者も、住んでいる市町村に保険料を納付しなけれぱなりません。
・65歳以上の人で、収入がなく保険料が払えない場合も、同居している配偶者や扶養義務者がいる場合は、それらの人がその人の分の保険料を払わなくてはなりません。
・40歳以上64歳未満の人(第2号被保険者)は、加入している医療保険の保険料に介護保険料が上乗せされて徴収されます。ただし、保険料の半額は事業主か公費で負担します。被扶養配偶者(主婦など)の分は各医療保険の加入者全体で負担します。
・第1号被保険者の保険料は全国平均で1人あたり月額2885円と見込まれていますが、3年ごとに引き上げられていきます。第1号被保険者の保険料は住んでいる市町村によって異なり、また収入や世帯形態によって違ってきます(図表4)。最高の自治体で標準保険料が月6204円、最低の自治体で月1409円と推計されています。
・上記の介護保険料は、厚生省の示した「介護保険事業計画におけるサービス量の見込み等の算出手順」と「第1号保険料推計用のワークシート」に従って推計されていますが、介護保険の介護給付と予防給付のみを対象としたもので、これに財政安定化基金の拠出金分の上乗せ、未納者分の上乗せが加わるため、実際にはもっと高くなると思われます。しかも、今後介護報酬が高く設定されたり、サービスの整備が進んでいけば、当然、保険料は高くなっていきます。
・保険料を払っても、約9割の人は介護保険のサービスは利用できず、生涯掛け捨てになると推計されています。大半の人にとって、介護保険証は、医療保険証と異なり、一生利用できない、ただの紙きれです。特に40歳から64歳までの第2号被保険者は、老化に伴う病気(初老期の痴呆や脳血管障害など15疾病が示されている)が原因で、介護が必要な状態となったことが介護保険適用の条件とされるため、ほとんどの人が介護保険のサービスを利用できません。
・保険料を滞納すると、利用料が3割になったり、保険給付が差し止められ、サービスの利用料が全額自己負担になるなどの厳しい制裁措置があります。

(2)利用料負担
・認定され、介護保険のサービスを利用する場合にも、1割の利用料がかかります。
・現在、ホームヘルプサービスが無料の人も、2000年4月からは、収入に関係なく、1回1時間400円程度の利用料がかかります(生活保護受給者は介護扶助で無料)。
・現在サービスを利用している人の大半の人は大幅な負担増になります(図表5)。
・施設では1割の利用料に加えて、食費、日常生活費も自己負担となります。
・1ヵ月の利用料負担(同一世帯で複数の人が利用料を払っている場合にはその合計)が37200円(市町村民税非課税者で24600円、老齢福祉年金受給者で15000円)を超えた場合には、いったん利用料を自分で立て替えて、あとで保険者(市町村)に請求すると、超えた部分が払い戻してもらえます。
・保険料や利用料が払えない人は、生活保護を申し込むしかありません。

(3)保険料負担と利用料負担の問題点
・生活保護基準以下の年金額の人からも保険料を年金天引きすることは、生存権を保障した憲法25条違反の疑いがあります。
・健康保険などに加入している第2号被保険者の保険料には事業主負担があるため、企業が負担増を避けるためにリストラや従業員のパート化を進めるおそれがあります。
・国民健康保険加入者の場合は加入者に無職世帯や低所得者が多く、保険料滞納世帯は全国で約300万世帯にのぼっています。これに介護保険料が上乗せされれぱ、保険料滞納・未納者がさらに増加することは目にみえています。
・介護保険制度のもとでは高い水準の給付を確保するたは、保険料が高くなります。特に今回の制度では、条例による保険料減免分の補填、未納者の保険料分、市町村が行う市町村特別絵付や保健福祉事業の費用までも第1号被保険者の保険料のみで賄う仕組みとなっているため、当該市町村に未納者が多げば多いほど、また市町村が市町村特別給付などの事業を行えば行うほど、その地域の第1号被保険者の保険料は高くな
ります。さらに、介護保険制度のもとではサービスの単価、つまり介護報酬を高くしないと、いくら在宅サービス事業などの規制緩和を進め、営利企業を含む多様な事業主体の参入を認めても、サービスの増大は見込めません。しかし、介護報酬の引き上げは、利用できるサービスの量の減少、もしくは保険料の引き上げにつながります。
ただし、介護報酬は現在のところ未定で(最終的には介護保険制度実施直前の2000年2月ごろに決まる見込み)、正式な第1号被保険者の保険料額の決定は、2000年の3月議会での条例制度時となります。
・第1号被保険者の保険料格差は基本的に各市町村のサービス水準の格差によって、生じます。具体的には、サービスが整備されている地域では保険料がカ高くなり、不足している地域では低くなるのですが、介護報酬が高くなる見込みの療養型病床群などへの高齢者の入院が多い地域では保険料が高くなる傾向にあります。
・定率1割の利用料負担には低所得を理由とする減免がないため、低所得の人の中にはサービスの利用を抑制する人がでてくるでしょうし、事業者や施設の側が利用料を払えそうにない人に対しては、サービス提供や入所を拒否するかもしれません。
・介護保険の給付水準が低く、明らかに家族介護を当てにしており、ひとり暮らしの重度の介護が必要な高齢者が在宅で生活していける水準ではありません。また、要介護度ごとの支給限度額を超えるサービスは全額自己負担となるため、要介護認定しだいで、現在のサービス利用を維持するにも、膨大な保険外負担が必要となります(図表6)。その結果、生活維持のために必要なサービスの利用も抑制せざるをえない人がでてくるでしょう。家族がいれば、家族介護の負担は増えるでしょうし、ひとり暮らしの高齢者の場合は衰弱死、孤独死に結びつく危険があります(資料1参照)。

3 サービスの不足〜福祉の市場化で公的サービスは削減
(1)在宅サービスとその問題点
・新ゴールドプラン(自治体レベルでは老人保健福祉計画)の1999年度末での目標値達成が困難な状況にあります。特に在宅サービスの柱であるホームヘルパーの確保は、1999年3月末現在で、90%以上の達成率がわずか1O県しかなく、しかも、ヘルパーの大半がパートです。かりに新ゴールドプランの目標値が達成されたとしても、在宅の高齢者の4割にしか必要なサービスを提供できない水準です。これでは、保険料を払って、認定を受けても、サービスが不足して利用できない場合がでてきます。
・介護保険調度の実施をひかえ、自治体が直接のサービス提供者から手をひき、民間事業者に丸投げする動きが広がっており、公務員ヘルパーは減らされ、ヘルパーの不安定雇用・低賃金化が進んでいます。このままでは、サービスの質の低下は避けられません。北九州市の社会福祉協議会は介護保険の事業者となることを断念しています。
・1998年度からの事業費補助方式(介護保険制度実施後の介護報酬を想定したもの)への移行によって、常勤ヘルパーはますます削減されています。また、現在、ホームヘルプサービスのうち約7割を占める家事援助サービスは、補助単価が低くなったために、必要性が高いもかかわらず、縮小されています。
・民間事業者も介護保険のサービスの単価が決まっていないために、サービス事業者になっても、採算がとれるかどうか不明で、様子見の段階です。また、営利企業の場合には事業者になっても、採算がとれなければ事業から撤退していく危険があります。
・ケアプランを作成する介護支援専門員(ケアマネジャー)の研修が遅れ、質の確保が十分できていません。

(2)施設サービスとその問題点
・介護保険制度では、入所者の要介護度に応じて施設に対して報酬が支払われるため、施設の経営が不安定となります。すでに、特別養護老人ホームなどでは介護保険制度の実施に備え、施設職員の削減やパート化を進めており、入所者に対する十分なケアができなくなってきています。
・特別養護老人ホームなどの施設には「自立」や「要支援」と認定された人は入所できません。また、これまで「ついのすみか」であった特別養護老人ホームも、入所後にリハビリテーションなどで要介護度が「自立」や「要支援」に下がると、退所させられます。家族のいない人や住居のない人はどこにいけばいいのでしょうか。そうした人のための地域の受け皿も全く不十分です。
・2000年3月31日までに特別養護老人ホームに入所した人の場合は、「自立」や「要支援」と認定されても(その数は推計で全国で約1万4000人)、制度実施後5年間は退所させられないことになっていますが、それらの人を入所させたままでいると、施設に入る収入が減るため、5年をまたずして、退所させられる危険があります。
・現在でも特別養護老人ホームの入所待ちをしている人が全国で何万人もいるのに、厚生省は、介護保険制度実施後は退所者がでるので、特別養護老人ホームの増設は抑制する方針です。これまでの待機者もすべて要介護認定を受けなくてはなりません。
・介護保険施設の入所者は、介護保険の給付が医療保険の給付に優先するため、急性時に必要な医療がうけれなくなるおそれがあります。

4 介護保険をめぐる現状と運動の課題
(1)見切り発車の危険
・保険者となる市町村をはじめ、さまざまな関係団体から国に対して介護保険制度の修正や改善、基盤整備の充実を求める意見書、要望書が出されています(市町村議会の国に対する意見書や要望書だけでも、1998年1月から12月までで1000件近く)。
・全国の特別養護老人ホームの施設長や職員、家族でつくる全国老人ホーム関係者会議も、1998年12月に「介護保険の実施を当面延期し、基盤整備を先行させつつ、国民的議論を」とのアピールを出しています。
・実務的な制度準備段階に入っている現時点では、十分な修正や改善はなされず、国民に十分な情報提供もないまま、介護報酬など重要事項が実施直前にばたばたと決まり見切り発車的に介護保険制度が実施される可能性の方が高くなっています。ただし、与党・自由党内には選挙を意識して、まだに実施延期論もくすぶっています。

(2)運動の課題
・介護保険制度の問題点を広く一般市民に知らせていく活動が不可欠です。行政側の説明会だけでなく、医療・福祉関係者が中心となって、介護保険制度の学習会、シンポジウムなどを各地を開催していく必要があります。関心は高く、多くの市民の参加が期待できます。すでに自治体担当者の過労自殺や特別養護老人ホームの入所者の自殺など、犠牲者がでてきている現状も知らせていくことが重要でしょう。
・その上で、福祉関係者や自治体関係者、そして一般市民が共同し、あるいは個別にでも国や自治体に対して介護保険制度を抜本的に見直し、施行前に法改正も含めた修正を行うよう要求していく運動を広げることが必要です。具体的な修正案としては、7月31目に福岡市で「安心できる介護保険の実現を求める会」が出した緊急アピールなどが参考になるはずです(資料2)。

 

介護保険と施設経営
介護保険は特養ホームをどう変えようとしているか
社会福祉流人やすらぎ福祉会
特別養護老人ホームやすらぎホーム
事務長国光哲夫

1)はじめに〜〜特養ホームで暮らすということ
特養ホームに入居してくるお年寄りは、それまでの人生に一応の整理をつけ、一応の決着をつけ、入居してきます。そして、その決して長くはない人生の最後のステージを、一緒に過ごすのが特養ホーム職員です。障害があっても痴呆であっても、最後まで、その人のそれまでの人生の延長線上として、その人らしく生きぬいてゆく、そのための生活の手助けをする、・・それが特養ホームです。特養ホームは世間で一般的に思われている以上に、様々なドラマと役割がある所です。
そういう特養ホームを、来年4月実施予定の介護保険は、施設経営にどういう影響を与えようとしているのか、「施設の都合」からではなく、「入居者、利用者」の視点で、みなさんとともに考えたいと思います。

2)やすらぎホームの概要
やすらぎホームは、約8年間の建設運動を経て、15,000人超える皆さんから1億7000万円余の募金を寄せて頂き1993年7月に開設しました。しかし、医療保険改悪の下、その後も特養待機者は増え続け、「ホーム増築を」の声は、地域からも行政側からも寄せられるようになりました。この深刻な介護問題の打開のために、1997年第二期建設運動をスタートさせ、6200人を超える県民市民から、9000万円余の募金を寄せて頂き、今年1999年4月に「新やすらぎホーム」が開設しました。

【施設概要】
・特別養護老人ホーム入居100名(うち個室41室)、ショート20名
・デイサービスセンターA型、E型
・在宅介護相談センター
・訪問看護ステーション(2ケ所)
・ホームヘルパーステーション
※協力病院として、ホームのお向かいに、金沢リハビリテーション病院(内・児・理療)
3)ケアの内容への影響
・特養ホームでは、「身体的介護」だけでなく、「生活」が大きなウエイト。
現在は措置費に含まれている「被服費、教養娯楽費、日用品費」等は、介護保険の1割負担分とは別の、「日常生活費」として、として個人負担になるだろう。
・「レクレーション活動」はそれ自体の楽しみと同時に、その事を通じての、職員と入居者、そして入居者間の人問関係づくりに大きな役割を果たしている。
・特養ホーム自体が「生活」から「身体的介護」にシフトしてゆく危惧。
・個室料金も解禁されようとしている。
・インフルエンザの予防接種の費用は。
・通院援助(付き添い)はどうなる?
・全体的に経済負担による、個々の生活の「切りつめ」がすすむ。
4)特養ホーム利用料は
現在の制度では、入居者本人が「被措置者費用負担金」を、扶養義務者は、「扶養義務者負担金」をそれぞれ、施設にではなく市に支払います。ここで重要なことは、各負担金は収入に応じて決められるということです。お年寄りご本人は自分の年金額に応じて、扶養義務者はその支払う所得税額に応じて、各々月額0円から24万円の範囲内で負担します。

(1998年度定員50人)

利用料負担額
以上 未満
本人 扶養義務者 双方の合計
〜1万 3 33 3
1万〜2万 5 6 5
2万〜3万 14 4 9
3万〜4万  3 2
4万〜5万 3 1
5万〜6万 8 2 6
6万〜7万 3 2 5
7万〜8万 3
8万〜9万 3 4
9万〜10万 6 2
10万〜i5万 4 8
15万〜20万 1
20万〜24万 1 1
50 50 50

 
介護保険では、各々の認定ランクの金額の1割(平均27,000円と伝えられています)に、食費23,000円を加えた計50,000円が、特養入居者の平均利用料となります。実際にはこれに日常生活費が更に加わることになります。
左図は昨年度(増築前の定員50名)の利用料負担一覧です。仮に5万円をラインとすると、本人だけの利用料で比較すると、25人(50%)、扶養義務者の負担分もあわせた金額で比較すると、20人(40%)の方は、その限りで、既に負担増となります。
このように,従来の「サービスは必要に応じて、負担は支払能力に応じて」という、福祉の基本的な考え方から、介護保険では「サービスは支払能力に応じて」という考え方になります。これは保険というシステムの基本原則です。

5)利用料の支払方法
費用の支払い方も変わります。介護保険では、「利用者と施設の契約」ですから、施設が、入居に係わる費用請求を、本人または扶養義務者(連帯保証人としての契約をすることになるのでしょう)に行い、支払って頂くわけです。深刻な不況と、度重なる医療保険制度改悪で、現在でも国保料などの医療保険料の滞納が深刻な社会問題になっているのに、これに上乗せして介護保険料とサービス利用料を負担しなくてはならないということになると、問題はますます深刻になります。施設は「未収金問題」で「頭」を悩ますというより「心」を悩ますことになります。事業者によってはサービス利用開始にあたって、「代金回収」の保障として、資産調査を行うところも出てくるかもしれません。

6)施設の収入
現在は、特養ホームの運営費は「措置費」という名の公費でまかなわれています。
やすらぎホームでは、今年度は入居者一人当たり、260,692円。これは「入居者の重症度に係わらず、入居者一人当たり」の金額です。従って総収入は260,692円x定員100名x12ケ月=年間3億1283万円。ここから入居者の生活費や、職員の人件費、施設の水道光熱費をはじめとする一切の、施設運営の費用を賄います。介護保険制度では、入居者の要介護度に応じて介護報酬が決まります。自明なことですが、要介護度の高い方が増えれば、収入は上がりますが、人手もかかります。逆に要介護度が低い方が増えれば、人手は少なくていいでしょうが、収入も下がります。人員配置数も最大のサービスの一つです。介護報酬については、いろいろと伝えられています。食費、日常生活費も含めて、最軽度で27万円、最重度で35万円とも伝えられています。下図は、やすらぎホーム入居者の要介護認定予想です。

ランク 該当者
要支援 14
要介護1 17
要介護2 4
要介護3 28
要介護4 17
要介護5 20
合計 100

 

要介護認定基準の変更(コンピュータソフトの操作)により、認定結果は誘導することはできますし、そもそも現在の260,692円という措置費自体が、あるべき基本的人権を守るべきケアの水準の保障と言う点からどうなかのと言う問題があります。(大都市部では、自治体独自の加算補助があります。介護保険導入にからめて、それが廃止されようとしていて大問題になっているのはご承知のとうりです。)収入予想シュミレーションはいくつかのパターンで検討しています。
措置費のうち約70%は職員の人件費として使われますが、やすらぎホーム職員体制は、入居100、ショート20の計120名に対して、介護職員が、35名・看護婦3名です。(入居者3.15人に対して職員1の割合です)
この措置費の金額は、その施設の定員、職員の経験年数、地域別などにより細かく計算され決められます。やすらぎホームも増築前の定員50人の時は、312,809円でしたが、定員100名になっために“割安"になってしまいました。従って、定員は2倍になっても、介護職員は2倍になっていません。
7)おわりに
たとえ制度が変わっても,従来できていたことができなくなるということは、よほどの合理的理由がない限り認めることはできません。
介護保険で特養は「通過施設」になると言われます。そして「施設から在宅へ」とも言われます。「特養ホームのお年寄りは、本当は家に帰りたがっているのではないですか」と厚生省の若い官僚は私に言いました。
 しかし「在宅=自宅」と限定的に考える必要はないでしょう。「障害があっても痴呆があっても、この地域で生きてゆくために必要な介護サービスの充実」が問題なのだと思います。そのなかには、ホームヘルパーをはじめとする自宅内を中心に提供されるサービスもあれば、施設に通って提供されるものも、また継続的に施設内で提供されるものもあります。それら全体の充実が求められているのあり、私たちもそのことを望んでいます。しかしそうなったとしても、障害を持った高齢者が最後まで安心して住める生活施設の必要性はなくなることはありませんし、なくしてはなりません。特養ホームは引き続き「介護保障の地域における拠点」であり続けるしょう。今後も,やすらぎホームの実践を通じて、そのことを訴えつづけて行きたいと思います。

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